孤高の人

孤高の人 1 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 1 (ヤングジャンプコミックス)

ヤングジャンプで連載していたマンガ、孤高の人が完結しました。
浅田次郎原作の小説を漫画化した作品で、人付き合いが苦手な不器用な主人公が山と出会い、前人未到のK2東壁を目指すという話です。
その魅力は、なんといっても圧倒的な画力で描かれる絵。
そして妄想!(えー)
ことがるごとに、主人公の心象風景が描写されます。演出ですが、あまりに迫力があるので、なんか毎回すごい。
たとえば、ある教授にスカウトされ大学の調査員として働くことになった主人公。が、山から帰ってきた主人公は髭も伸び放題、風呂にもずっと入っていないひどい風体。そんな自分を、青春を謳歌する大学生たちの姿と対比させ、自分はもうそんな世界にはいけないと悟ったのか、怪獣に姿を変えてしまった。キャンパスを歩くゴジラ、という異質な描写がされました。


これは人間と社会を描いた話です。
主人公は人付き合いが苦手で、とにかく誰とも関わらずに独りで生きたいと望んでいた少年。ある日、高校でクライミングと出会い、険しい山の上なら独りになれることに気づく。やがて、世界でもっとも高く、もっとも険しい山――K2登頂を目指すことを夢見るようになります。
ところが、山を望めば望むほど、人間関係というものを意識させられます。
山を登るには装備などに金がかかり、働かなければいけない。そのため冷凍倉庫の派遣社員になります。(昼休みは冷凍倉庫で雪山体験もできるし。帰り道の公園でペットボトルに水をつめて歩いて帰れば、トレーニングにもなるし水道代浮くし一石二鳥!)
会社の同僚に無理やり風俗連れていかれそうになって逃げ出したり、事務の女性にストーカーされたりしますが、ある日、チャンスがやってきます。
各地の山を単独で踏破しまくっていた主人公。その経歴を認められ、とある企業が企画したK2のアタックチームの一人に選ばれることになります。
その結成されたチームで、手始めに冬の南アルプスを縦断することに。
そこで主人公を待っていたのは、地上よりも厳しい人間関係。
チームを現場で指揮する副隊長(隊長は社長で、途中ヘリで現れるだけ)。この人が偏屈な人間で、昔かたぎといえば聞こえはいいですが、古い上下関係を重視してメンバーを支配しようとします。登場したときは「ああ、最初は嫌な風に描かれるけど、実はいい人パターンかな?」と思ったんですが、結論から言えば最後まで嫌なやつでした。
他にも、野心に燃える若者や(主人公のライバル的位置、なんだと思うけど……実力はあるんだろうが、副隊長に媚を売るのもうまい)、
敏腕トレーダー(最初の台詞は、主人公が岩を登るときに唯一指を引っ掛けられるポイントに足を踏みつけ「ここ、10万円で売ってやろうか」。財布をなくして、主人公に「どうせお前だろ、貧乏人が!」と掴みかかるのもこの人)、
殺人犯(?)、
の五人で冬のアルプス縦走。
もちろん、楽しい登山になんかなるわけもなく……そこには、山よりも厳しい人間関係が展開します。


たとえば。
途中、もっと自分の意見をもたなければ、と決意した主人公。
副隊長に命じられ、野心家の彼と山小屋まで食料とかを取りに行くことになった。
山小屋になんとか着いたはいいが、外は猛吹雪。一緒に行った彼は、早く戻ろうとするが、主人公、奮起して言う。「今戻るのは危険だ。吹雪が去るまで待とう」。
これに、反論される。「なんだお前、怖気づいたのか!」
「俺は、自分の判断を信じる」
自分を貫いた主人公。
仲間の彼は、勝手にしろと行ってしまった。
独り、暗い山小屋で耐え、やっと吹雪が去ったあと、仲間たちのところに戻った。
これ、普通なら成長した主人公を後押しするような展開があると思うんですよ。たとえば、無茶をした仲間のほうがはぐれてしまった、とか。
しかし主人公を待っていたのは、仲間たちの氷山よりも冷たい目線。


痛い!
痛い痛い!


先に山小屋を出た彼も普通に戻っていて、主人公はただ命令を無視したやつ、というレッテルを貼られることに。

この後、さらに怒濤の展開が待っているわけですが。人間、怖いですね。


で、この登山の後も主人公は山を通して人に助けられ、また人によって苦しめられ、一時は山に登ることをあきらめながら、しかしまた戻ったりします。
独りであることを望みながら、しかし求めるごとに独りではいられなくなる。
そして今回、そのエンディング。
もはや終盤は演出なのか高度障害に陥った主人公の妄想なのか、ようわからんことになってますが――とにもかくにも、これにてこの物語の頂とあいなったわけです。
拍手。


で、この文章はまったく記憶のみを頼りに書いてるので、仔細は違ってるかも。
今度コミックスも一気に読んでみるか。
原作もあるようだけど……まあ、いいか。