邪悪にして悪辣なる地下帝国物語

邪悪にして悪辣なる地下帝国物語

邪悪にして悪辣なる地下帝国物語

読了。
後輩のデビュー作。
前に合気道部の後輩の話の感想を書いたときもそうだったけど、特に区別せず「商業作品を読んだ」ものとして書くよ。


話としては、「徒党を組んだ列国に滅ぼされた魔法王国。生き残った王子と王女の兄妹は列国を統べる聖王国に復讐するため、禁呪によって地下帝国のダンジョンを作成。欲深い冒険者や敵国の騎士団を誘い込み、殺したり洗脳したりする」という感じ。



以下,ネタバレだよ。




微妙!
ざっと言うと次のとおり。


・地下帝国経営シミュレーション的なところはおもしろい。
・小説技法としていろいろ足りない。
・展開として不満。


欲深きものの魂を得ることで成長させる地下帝国、という基本アイディアはおもしろいんだけどね。ゲームだったらいいと思う。
ただ、思いのほか掘り下げられてなかったのが残念。まあ、これからか。序段だものね。


ほかはちょっと……正直、ネット小説レベル。いや、ネット小説だったんだけど。
描写が弱い、というかほとんどない。
最近の人はアレなのかなぁ。別に細かい描写とかなくてもいいんだろうか。でも「ダミ声の終末の騎士」とか「バケツ兜の女騎士」とかは、どう考えてもダメな気がするんだけど。単純にかっこ悪い。ダミ声とか、バケツ兜って。
ラスボス的な存在が「青年を模した高さ三メートルほどの純白の石像」の一言だけってのは、さすがにどうかと思う。どんな石像? どんな格好? 石像と言ってもいろいろあるし、青年と言ってもいろいろいるし、武装してるようだけどどういう装備かわからんし、石像がどう動いているのか(関節とか)不明だし。


そして展開。
いわゆる「俺SUGEEEE!」って、こういうことなんだろうか。
妹無双。
別にいいんだけど、もうちょっとピンチを演出してもいいんじゃないかな、と思う。石像(敵方の切り札)が登場から2ページでビビり出す展開は果たしてどうか。もうちょっと妹を追い込んでもいいんじゃないかな。ついでに装備の一二枚破かせたりね(杖は切断されてたけど、そうじゃない)。大破じゃなくても中破くらいしといたほうがよかとね?


他にも問題点を挙げればきりがないんだけど……。
キャラが多すぎ。(話の規模からすればしょうがないのかもしれないけど、書き分けしようとしてる努力は見えたけど、一日読まないでいると誰が誰か本気でわからなくなる)
国が多すぎ。(今後出てくるんだろうからしょうがないのかもしれないけど)
兄妹が地下帝国を作った理由が「聖王国を滅ぼすだけなら自分らだけでできるけど、苦しんで後悔してほしいからじわじわ滅ぼす」とはちょっとどうか。
兄妹、復讐に身を焦がし狂気に至っているようだけど、あまり狂気を感じない。
兄、何もしてない。姫の乳揉んだくらい?
そもそも進入するのを待つダンジョンを作って、どうやって敵国を滅ぼすのかわからない。作中では「ゴブリンらを鍛えて遠征する」とかちょっと言ってたけど、無理じゃね? 無理そうなことほどやってのけたときのカタルシスはすごいけど、まったく方法が見えないので、とても不安になる。
あんまり残虐じゃない。
目を矢で貫かれた人は「いてぇぇぇ! 矢が目に刺さった!」とかたぶん叫ばない。


うーむ。
こういうこと言っても、もう出版されちゃったから直せないんだよね。
恐ろしいわ。


逆に考えれば、絶望的に読めないほど文章がひどいわけでもないし。
誰が誰かわからないほどキャラが崩れているわけでもないし。
一応展開に脈絡はあるし。
そういう褒め方もできるかな。(褒めてるだろうか?)


あ。「敵に自白魔法をかけて『これからお前を処刑するが、お前はどんな殺し方を好んだ?』と質問」という展開はおもしろかった。そういうのだ、そういうのがほしいんだ。