天女

皆様方ごきげんよう
久しぶりに更新するよ。
こちら。


http://kageyamajuku.com/store/products/detail.php?product_id=31


いわゆる電子書籍
初めて購読してみました。ぶっちゃけ、サイトの雰囲気がかなりいかがわしく感じたけど。
というのも、大学時代の後輩が書いたものみたいなので。ちなみに、合気道のほう。小説とか、書いてたのね。全然知らなかった……


まあ宣伝のつもりなら美辞麗句を並べるんだけど、あいにくと閑古鳥鳴くこのブログで何を言おうがきっと効果なんかない。というわけで、書きたいことを書くことにしようと思うのであります。


以下、ネタバレするよ!



 簡単にあらすじを紹介すると、


シングルマザーとして娘を育てている女性が主人公。彼女は昼はキャンペーンガール、夜はクラブで働く日々を送っている。そんな日々に嫌気が差してきた彼女は、ふと魔が差して夜遊びをしてしまう。それまでは娘のためになるべく早く帰っていたが、自分もまだ若いことに気づいたのだ。最初こそ罪悪感を覚えていたが、だんだん遊ぶことの楽しさのほうが勝っていく。
 ある嵐の朝、朝まで友人と飲み明かしていた主人公は娘の学校から休校の連絡を受けそびれてしまう。それと気づかず登校した娘は、トラックにはねられて死んでしまう。
 失意と罪の意識で抜け殻のようになる主人公。そんなとき、祖母にある伝説を教えられる。沖縄のある島へ行けば、死者の魂と出会わせてくれる。八百万の神様が。


と、いう導入。沖縄なのになんで八百万の神? と思わなくもないですが、まあ、そういう伝説が作中ではあるようです。(実際にあるのかな? 民俗学には明るくないのでなんとも)
自分のせいで死なせてしまったと主人公は苦悩するのですが、たしかにそうだけど、でも実際に娘が死んだ原因は途中で拾った犬なんですよね。最近母親に構ってもらえない娘は、雨の中に捨てられていた子犬に自分を重ねて、一緒に連れて行こうと抱える。けど犬は途中で暴れて道路に飛び出し、それを追いかけて娘は事故に遭ってしまう。
直接的な原因は、母親でも嵐でもなく、子犬とトラック。
まあ、主人公が気に病むのはわかるのでいいんですけど、もっと直接的にしたほうが効果的だったのではないかと。
あと、元夫がひどすぎる……高校一年のときに付き合って、三ヶ月で身ごもってしまう。一応主人公の両親を説得しようと頭を下げてくれたり、学校を辞めて働いたりと最初は誠意を見せるも、仕事先の工場がつぶれてからは下り坂。中卒では働き口も見つからず。落とされるたびに失意は重なり、だんだん職を求めるよりパチンコ屋に出入りすることが多くなる。主人公も彼を支えるつもりでパートをはじめるが、夫に言われて夜のクラブで働くことに。夫のことは愛していたから他の男に接待するのは嫌だったけど、我慢して働く。夫はパチプロを目指す。で、あるとき夫が主人公のクラブにやってくる。最初はパチンコで勝って小金が入ったので妻の働く様子を見に来たみたいだけど、他の男に媚びる姿を見て激怒。自分も(妻の稼いだお金で)妻のクラブに通い詰め、目の前で他の女といちゃついて見せる。家に帰ったらDV。最後には止めに入った娘まで足蹴にする。さすがに離婚したが、娘の葬儀になぜか出現。失意の中の主人公に、「お前が殺したんだ!」と罵声を浴びせる。
――と。
ここまでひどい男、僕は初めて見ましたよ。
逆にすごい。この話で一番感動したのは、この徹底したダメ男っぷりかもしれません。いやあ、すごい。無駄にすごい。このまま闇金ウシジマくんに登場できるくらい。でも、この話の場合、ここまでひどする必要はなかったんじゃなかろうか……。
で、話は続きます。


祖母の話した伝説のことを図書館で調べ、確信を得て、沖縄に旅立った主人公。道に迷うが、導かれるように目的の場所にたどり着く。そこでシャーマンの老婆と、彼女と同居する青年に出会う。事情をわかってくれた二人は、娘の魂と出会える日までともに暮らすことを許してくれた。
老婆に伝説の話を聞く。かつてその島にいた仲むつまじい家族が、母親が死んでしまった。残された家族は悲しみ嘆き、天に祈る。すると、見知らぬ女性が現れてその家族と一緒に住み始めた。その女性は、亡くなった母親の魂を宿していた――という話だった。
老婆とともに暮らす青年も、傷ついた過去を持っていた。彼の父は伝説に期待して、死んだ妻が帰ってくることを望んだが、結局会うことができなかった。そのため嘆き、神聖な浜に身を投げて死んだのだ。浜を穢した者の息子だとして、青年は島では村八分にされていた。


この辺が中盤。
なんでそんな伝説に主人公が確信を得てしまうのか……多分、失意のせいでしょうけど。それにしても、もうちょっとなんとかなるまいか。って、きっと、俺の書くキャラも同じようなことを思わせているのかもしれない。反省。
で、沖縄に行きますが、まさかのシャーマン。ユタ、といいますが、その言葉は民俗学に明るくない俺も聞いたことはあります。青森のイタコ、沖縄のユタ、新宿の母。日本を代表する三大シャーマンですね。
で、そのシャーマンも、死者復活の伝説を語り、主人公は希望を得ます。
青年はまあ、素朴な感じですね。無口で常に控えめだけど、いつも見守ってくれてる。まあ、控えめすぎてあんまり印象には残らないのがネックですが。


希望は得ても主人公は気が晴れない。何を見ても、娘のことを思い出す日々。娘に届くと信じて、空に向かって言葉をかけ続ける。
と、ある日老婆は一人の少女を連れてくる。母と離れて暮らすことになった彼女の世話を主人公がすることになった。同じ年くらいの彼女と娘を重ねて、いっそう悲しくなる主人公だが、母親と引き離されて生活する彼女のことも気になり、次第に仲良くなっていく。島の人たちからは、本当の親子だと思われるくらいに。
ある日、少女の母から主人公宛に綺麗な風鈴が郵送されてくる。老婆にそれを見せると、得心がいった様子で彼女は語る。それはニライカナイの風鈴で、その少女には娘の魂が宿っているのだ。
歓喜する主人公。我が娘よ!


娘との再会です。まあ、みんなが言いたいことはわかります。俺も言いたい。
なんでやねん。
ニライカナイの風鈴が届く→送った彼女の母はニライカナイの住人→その娘である少女もニライカナイの住人→死んだ娘だ!
こういう感じ? いや、なんか違うでしょ……そもそも郵送されてきたやつだし。ニライカナイからも宅配可能なのか。離島の特別料金とかかからないのか。
手放しで歓喜した主人公ですが、その後一応検証します。
少女に、自分の娘だったときの記憶はないようだけど、細かいしぐさはたしかに似ている。絵を描くとき目の中に星マークを入れたり、熱い風呂に入るときにぎゅっと目を閉じて耐えたりする。ああ間違いなく我が娘!
――って、いや、それって検証になってない……
目に星を描いたり目をぎゅっと閉じて耐えたりなんて、子どもならけっこうやると思うよ?
そもそも仕組みがよくわからない。母親が帰ってきた伝説にしてもそうだけど、死んだ時点でその宿主の人は生きてる。なのに生まれ変わりとは、どういうことだろう。うーん。


主人公は、少女と老婆、そして青年との幸せな生活を送っていた。が、ある日台風がやってきて、青年が嵐の海で遭難したとの知らせが入る。すぐに探しに行こうとする主人公だが、嵐の夜に少女ひとりを置いていくのは、喪った娘のこともあるし、気が引ける。しかし青年はかつて村の禁忌を犯した男の子どものため村八分状態にあり、島民は熱心に助けようとはしないだろう。主人公は探しに出る。
島民はやはり消極的だった。海保に連絡しただけで、待機している。そもそも海は探しにいくことすらできないほど荒れている。絶望する主人公。すると、急に台風の進路が変わり、晴れ渡っていく。すぐに捜索が開始され、青年は無事に助かった。
家に帰ると、少女の姿がない。焦る主人公だが、伝説が語られる砂浜で、少女の姿を見つける。なぜか、彼女の母親も。主人公のほうに駆け寄ってくる少女の体から、星屑のような光があふれる。すると、彼女の姿は死んだ娘に変わり、主人公の胸に飛び込んできた。
老婆は語る。彼女は天女の力を使ってしまったため、元の世界に帰らなければならない。


ここでピリオド。
我々は「なんで少女を娘だと確認するんだ」と思ってましたが、実際に娘だったようです。きっと天女の力なるスピリチュアルパワーを得て、主人公のところに帰ってきたのですな。記憶も何もなくなってるけど。
だけど青年を助けるためにパワーを使ってしまった。
そのためニライカナイに帰らなければならない。


ラストシーン、消え行く娘は主人公に笑顔で生きてほしいといってきます。青年とともに、楽しく生きていってくれるのが自分の望みだと。主人公は彼女の願いを胸に、生きていくことを決めるわけですが。
俺の胸の中には、「天女って何?」という疑問でいっぱいになってましたがな。
ここで初めて出てくるワード、天女。そういうの、アリな世界なんだ……
結局、主人公が明確に娘の死から立ち直って成長する様って描かれてないような。青年との関係をもっと掘り下げればよかったのではなかろうか。


と、総じていろいろツッコミどころもありましたが、娘を亡くした母親の心情には感じ入るものはあったので、おもしろかったです。
あと、文章はうまいと思う。多分。描写とかもいろいろ気を使ってる感じがする。力のかけ方がわかってないせいか、もうちょっと工夫が必要なところはあるけど(たとえば台風のときにザーザーという雨の音を強調してるけど、台風なら雨より風じゃなかろうか。そして俺偉そうだな)。
そんなわけで、もし興味を持ったら読んでみてあげてください。ちなみに別の作品『純恋歌』は、本人も「学生時代に何も考えずに書いたものだから、あまりおすすめしない」と言っていたのですが、たしかに、そっちはちょっとアレでした。まさに素人小説。無駄なシーンやキャラが多いし、全体的に描写でなく説明過多だし、いろいろ超展開だし。これで料金的には天女と同じだと思うと、ちょっと考えてしまいます。
でもこれを学生時代に書き上げた、という成果はすごいかも。文術部の部長なんかしてましたが、結局、俺が携わっていた三年間で長編を書き上げたのは一人しかいなかった気がする。長編を書くというのは、それだけですごいことかもしれない。すごいね!