『ミミズクと夜の王』

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

12歳になった娘の誕生日に贈りたくなるような本でした。


魔物のはびこる夜の森に、ひとりの少女が訪れる。額には「332」の焼き印、両手両足には外されることのない鎖。自らをミミズクと名乗る少女は、絶大な魔力と美しき姿を持つ夜の王にその身を差し出す。自分を食べてもらうために。
しかし魔物を統べる夜の王はそれを拒む。やがて夜の王はミミズクに「フクロウ」と名づけられ、そしてミミズクの焼き印を美しい文様に変えた……。


しびれました。
奴隷少女と魔を統べる王の関係に。
で、それを俺は「かっこいい」と表したのだけど。
実際のところは、優しい話でした。
その優しさゆえに悲しい出来事も起こるけれど、でも最終的に事態を解決するのも、また優しさ。
実際、何てことない話なんですよ。
ネタバレしてもなんら問題がないくらい。
寝入り際に読み聞かせてもらった寓話は何度読んでも聞き飽きないのと同じように、
この話はネタバレしても問題ない。
ゆえに、しますが。
奴隷の少女が魔物の森にやってきて、魔王に助けられて、しかし魔王は王国の討伐隊に捕らえられて、少女は魔王に記憶を封じられて人間の世界で幸せに暮らすのだけど、結局記憶は戻ってしまって、魔王を助け出して自分もまたともに森に戻る、という話。
その根幹にあるのは、優しさ、なのです。
魔王討伐のキッカケは、少女が魔王に囚われていると思い救出しようと王国が沸きあがったからだし。
王が魔王を捕まえてその力を奪おうとしたのも、手足が不自由な息子の体を治してやろうとしたからだし。
魔王が少女の記憶を封じたのも、彼女が人間世界で幸せに暮らせるためにだし。
人間たちは少女を優しく受け入れてくれたし。
記憶を取り戻した少女が魔王を助けようとしたのも、彼の優しさに気づいたからだし。
少女によくしてくれた人間たちも、みんな魔王を助けるのに協力してくれたし。
力を取り戻した魔王は王子の体を治しちゃうし。
みんないい人だよ!
童話のよう、と言ったけれど。
子供が読める話って、実は、誰でも読める話なんですよね。


『扉の外』を読んだとき大賞でもおかしくない、と興奮して口にしましたが。
これぞまさに大賞。
『扉の外』は、「すげえ!」とおもしろさをあれこれ説明できる作品。
しかしこれは、「うあぁ……」と感嘆の声しか出せないくらいの、満足感を与えてくれる作品。
ゆえに僕は黙ります。
最後に。
これが530円(税別)で買えるってのはすばらしいと思うのですよ。
なんかハードカバー方面に行きそうな気もするなぁ(苦笑)