マージナル

マージナル (ガガガ文庫)

マージナル (ガガガ文庫)

いつの間にか出ていた、ガガガ文庫の第一回大賞受賞作。
いろんな意味で、今後のレーベルのカラーを決定付ける一作のはずである。


アングラサイトの管理人をしてる主人公は、同級生を殺されてしまう。たまたまその犯人が自分のサイトにやってくる。そして、お互いの正体を見つけ、殺すという、命がけの追跡劇が始まる、と。
まあ、なんだろ。
姿が見えない相手を探し合うというと、デスノートみたいですけど、別にあまり追跡はしていない(苦笑)


実も蓋もなくいうと、GOTHみたいな話?
GOTHは「殺人嗜好者を主人公にしているのに、不思議とさわやか」という印象でしたが、これはそれからさわやかさを取り払った感じですかね?
新人のデビュー作を乙一と比較すること事態が間違っている感じもしますが、それでも似たモチーフを描いているのだから、どうしても比べてしまう。うむーん。
でもまあ、材料選びはライトノベルって意味からすれば、間違えてはいないと思う。こういうネガティブな嗜好への興味ってのは、持っている人はけっこういると思うから。
悪くいえば、厨臭いってことになるんでしょうけど。
ただ、なんだろ。
そういう暗い部分がいちばん大きい売りだと思うんですが、その辺に深さが足りないと思う。例えばこないだ読んだ『マルドゥック・ヴェロシティ』も数々の拷問が示唆されていました。その業界にはさして詳しくないんですが、苦痛を与えるという部分を詳細に描写していて、おぞましさはなかなかのもの。が、そういうインパクトからすると、この話は弱い。堀り方が甘いです。
また、深くする以外にも、別のところを掘る、という手法もあると思います。例えばGOTHでは、「子供を棺桶のような箱に入れてアサガオの花壇の下に生きたまま埋める」というエピソードがありました。従来の『殺人』とは違う、別の新鮮な手法です。だが、この話では、そういう目新しさから見ても、弱い。殺人鬼は遺体をバラバラにするだけです。そんなの、フィクションに存在する殺人鬼はみんなやってます。いまさら感です。
小説を書く上で、この「深さ」と「目新しさ」はかなり中核にあると思うのです(まあ、深さってのは、別の目新しさを見つけるって意味なので、ふたつの根っこは同じっちゃ同じなんですが)。
が、それがない。
俺が楽しめた――目新しさを感じたのは、「ヒロインを殺したい欲求がある主人公が、同時に彼女に対して恋心も持っている」というところでしたが。でも、これはよくあるのかなぁ。俺が知らないだけで。


しかし、従来のラノベからみたら、どうなんだろ。この作品でも、刺激的で先鋭的に見えるんだろうか。
異能力も特殊設定もなく、人間の心の中にいる怪物を描くというのは、たしかにラノベでは珍しい気がする――といえるほど、実はラノベを網羅してるというわけでもないけど。
ふむん。
どうも同時に刊行された『武林クロスロード』がエロス方面にありえないほど突っ走っている、ということも聞くし。
中高生がターゲットと聞いて低年齢層向けな話が多いのかなと思ってたけど、なかなかどうして思い切っているのかなぁ、ガガガ。


あと、関係ないけど裏表紙のアオリ文が『殺人や拷問を愛好する異端者たちが集うアンダーグラウンド・サイトの管理人である月森高校二年生の摩弥京也は、〜〜』という文章から始まるんですが、さらりと見たとき『殺人や拷問を愛好する異端者たちが集う』が『月森高校』にかかっているように見えて、それはそれでおもしろそうだな、と思ってたんですが。殺人や拷問を愛好する異端者たちが集う高校ですよ。想像を絶します。
この想像を絶する、というのを提供するのが、エンターテイメントってやつでしょう。