『ドリームノッカー』

ドリームノッカー―チョコの奇妙な文化祭 (電撃文庫)

ドリームノッカー―チョコの奇妙な文化祭 (電撃文庫)

そういえば『文学少女シリーズ』の先輩と主人公の構図は、水夏第二章の主人公とヒロインの構図と似てるなー、と思ったり思わなかったりそれは「奔放な先輩と振りまわされる後輩」という構図だけなんじゃないかと思ったり。
水夏第二章。数年前に出た、いわゆるギャルゲーですが、天才の父を持つ天才少女とその幼馴染の天才の主人公、という設定が素敵でした。各所に鳥肌が立つ演出もありました(擬音によるミスリーディングを初めて見た!)が、残念ながら無常なる時の流れにさらされてその記憶は「すげえ」という感覚のみ残してほとんど風化してしまいました。
いや、残ったのは「すげえ」だけでもない。
微妙に読みづらいなー、と思ったその文章に対する印象。


というわけで、水夏第二章のシナリオを書いた御影さんの小説デビュー作。
読みづらいよ!
なにせ、冒頭から「四十年前」と「五年前」と、過去語りを二連発する。今の話をされていないから、地に足がつかない感じで気持ち悪い。他にも、幕間で視点が別の人に変わったりするから、そのたびに混乱するし(いやまあ、その辺がトリックになってる仕掛けもあるんだけど、そのたびに混乱させてしまうから諸刃の剣だよなぁ)。
会話文も、例えば「Aが言った。」と記述した次に、Bの台詞が入ったりするから(Aの台詞は、地の文の前にあった)、誰が発言したのかわかりづらいし。
文章的にも、意味がとりづらいところが多かった。具体的な記述よりも抽象的な記述を主にしているからか。ところどころ記述を省略しすぎていているからか。論理が飛躍しているからか。イラストが出てくるとなんか安心する。こういうシーンなのか、と理解できるから。
とにかく、そういうわけでやたらに読むのに時間がかかった。5,6時間くらい?
普通のラノベの二倍近い。
やった、普通の本の二倍も楽しめるよ! ――とは残念ながら思えないたちなので……。


で、内容。
夢食いとバトルをなくした『バイバイララバイ』、その完成形でしょうか?
……いや、自作に例えて申し訳ないですが……。
夢から現実に帰ってくる話ですね。ドリームノッカー、というタイトルからしてそうですが。
文化祭、ミッション系の女子高(いや、共学らしいが男どもの描写はほとんどなかった)、演劇部で語り継がれるいわくつきの演目、部員同士で呼ばれるあだ名――ああ、シンパシー感じます。
やろうとしていたことを代わりにやられてしまったような感じですね。
俺は「夢から帰ってくる動機」について悩んでいたわけですが。だって夢の中は自分が望んだ世界。どうしてそれを捨てて思い通りにいかない現実に帰ってきますか。
この本の回答は「友達を取り戻すため」。「夢は現実があってこその夢」というのもあるか。ちょびっと「理想の夢には魅力を感じない(理想であるために魅力が消えてしまっている)」というのも。
「夢の二つの意味を混同している」と主人公が指摘されるシーンは印象的でしたね。まったく同じ指摘を俺自身がババライでされたので(苦笑)
あえてそういう話を作中でさせることで、「混合された夢」というものをありにしているらしい。なるほど。


まあ、全体的な感想とすれば――わからない(苦笑)。
いやまあ、おもしろかったはおもしろかった。けれど文章が上記のように読みづらいと感じた上に、放そのものもミステリー仕立てで複雑で、過去と現実、キャラとキャラが錯綜し、その上ファンタジー要素まで入ってくるもんだから、もう何がなんだか。もう二回くらい読みなおせばマジでおもしろい予感はするけれど、さて、そうなると総計15時間……昨日の俺の睡眠時間じゃないか(それはそれでどうよ?)


最後に。
夢と現実を行き来できる、狩人の兄がかっこいいのですけど。
顔は出てこないけど。
姿さえほとんど現さないけど。
だけど、それがいい!