All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

All You Need Is Kill (スーパーダッシュ文庫)

ほどけか――失礼。
前々からあちらこちらで話を聞いて、本屋で見つけたときにそれを思い出して買ってみた本。
主人公が何らかの理由で同じ時空間を繰り返して体験する――いわゆるループモノである。
涼宮ハルヒの中に収録された短編を除けば、実はちゃんとループを扱った作品は初めて読んだかもしれない。仲間内ではいかさんもそうだけど、なぜこのループモノが一部の人たちに敬愛されているのかーーその謎が今解き明かされ……た、かな?


この話。
異形の生物の脅威にさらされている人類。主人公は新兵として戦場に立ち、そしてあえなく戦死――した瞬間、なぜかその一日前、出撃前日に戻っていた、という導入。
最初は夢だと思うが、起こる出来事が夢とまったく一致する。そのまま二回目の「初戦」に赴くが、そこでも戦死。あんなところで生き残れるはずがない。基地からの逃亡を決意。なんとか基地から脱出できるが、外でなぜか待ちうけていた敵に殺され、死亡。前日に戻った瞬間、拳銃自殺を図り死亡するが、またループ。
主人公は決意する。生き残ってやる。絶望的なあの戦場を生き残ってやる。それだけが、このループを抜け出す道だと信じて――。


作者があとがきでちょっと語っていますが、これはアクションゲームやシューティングゲームですね。ゲームの主人公たちは敵に立ち向かい、そしてたいていの場合は死にます。一発でクリアできる人はそうそういない。しかし、繰り返しその戦いを経験することで、主人公の動きは洗練され、敵の動きを記憶し、あるいは見切り、死ににくくなっていく。
それがまさにこの主人公。
戦場を繰り返し体験することにより、歴戦の新兵が誕生するわけである。
やがて彼はループの謎の解決と、そしてその脱出方法にたどり着くわけですが――ここでもただでは終わらせないのが、すごいなぁ。


ループという非常に高度な作りなだけに、構成力は相当なものがあるのでしょう。ちょっと参考にします。
そして、神マの感想部分で杉井さんが言っていた「問題提起に四分の一は割く」ということがわかったりしました。ループの抜け道が戦場を生き残ることだけだと悟り、鍛え抜き、生き抜くことを決意するまでおよそ80ページ。全体で270ページ。なるほど。その後は首尾一貫、ループを抜けるための努力になっています。努力の方向は多少変わりますが、目的は変わらない。そして最後の決断へと至る。


これは純粋なループモノではないかもしれないですね。前述のように、これはTVゲームのそれです。本来のループモノからすれば、メタ的なところに位置するんじゃないかな、と思いますが。
思うに、ループモノのキモは脱出ですかね。一定の条件下に閉じ込められた主人公が、そこから脱出するという一連のドラマ。エンタメの基本が障害とその達成ならば、その障害が繰り返す時空間ということ。たぶん、時空間の代わりに刑務所とか絶海の孤島とかでも同じ構造の話が成り立つと思う。
だけど、時空間である。普通の人間ではまず乗り越えられない壁である。それに対して挑戦するからこそ、おもしろさが生まれるのであろう。
ただ、これって難しいよなぁ。だって繰り返す日々ってことは、下手な構成だと、同じような出来事を書いてしまうことになるから。ただのマンネリに陥る。
ちょっと真似できないっすね。


しかし、いつも思うんだけど、こういうときの「脱出のヒント」って、どれくらいがご都合主義とされてしまうんだろうなぁ。
あからさますぎるとまんまご都合主義だし。隠しすぎると、主人公がそれを見つけられない。それでも強引に見つけてしまうと、やっぱりご都合主義。
これはミステリ系の話でも言えるかもしれない。
例えば犯人と、それを見つける探偵がいるとして。探偵は犯人が残したヒントから犯人を割り出していくのがオーソドックスな流れだけれども。
このヒントのあんばい。そして、ひらめきのあんばい。


自分の話になるけど、俺はどうもこのひらめきのあんばいが甘いらしい。なので、「主人公はなんでここでいきなり答えがわかるのだ?」と言われてしまう。
ヒントのほうはヒントで、足りないとか、書くし方がなっていないとか言われるし。
まいったまいった……って。
繰り返してはいないけど、時空間の壁から脱出するって意味では、神マはそれに当たるかな。いや、「脱出する」という問題提起がなされてなかったけれども。いや、さらにいえば単に構造が脱出に見えるだけで、実は対話の話なんだけど。
みゅー。