ほうかご百物語

ほうかご百物語 (電撃文庫)

ほうかご百物語 (電撃文庫)

電撃小説賞の受賞作が発売される季節ということで、大賞受賞作を読んでみました。
去年の。
実はまだ読んでなかったのですよ……。


まあ、下のほうで「電撃は大賞が一味違う」とか言ってますが、ぶっちゃけこれはそういう流れともまた違うなという印象。一年前の『ミミズクと夜の王』は一味違ったけど、さらに一年前の「お留守バンシー』も、そうだった。なんというか、普通のラノベっぽい。いや、ラノベの新人賞なのに大賞がラノベっぽくないのが普通ってのが、もうどうかしているとは思うんですが。


躍動感ある美しい人を見ると思わず描きたくなっちゃうほどの美術バカの主人公は、ある日、絶世の美女の姿をした化けイタチに襲われる。が、彼女の美しさに惚れてしまった主人公は、逆にモデルを依頼する。紆余曲折で美術部員になったイタチさんと、妖怪オタクの先輩とともに、次々と現れる妖怪たちの起こす問題を解決していく。


と、そんな話。
まあ、こんな難行も描かずとも「イタチさん萌え。以上」で説明完了なほど、イタチさん一色ですが。
主人公がもうイタチさんを(絵描き視点で)ベタ惚れで、彼の一人称文体なものだから、もうほわほわです。で、イタチさんもいちいち照れまくる。この話の半分はこれ。主人公が絵描き視点で惚れてるからこそ、下心とか感じないから逆に素直に感情移入できるのやも。
あとの半分は、先輩の妖怪うんちくですね。これはもう、さすがとしか。京極堂か。
ただ、残念なのがあとがき。『ストーリーの都合上、妖怪の設定を意図的に曲解したり、あるいは創作した個所が少なからずあります』とか。
それって、どうなんすか?
いや、きちんと断ってやってるんだからいいのかもしれない。小説は何を書いても自由なんだから、別に妖怪の設定を変えたっていいではないか。そういう意見はわかるのですが……
俺はこわいのですよ。数年後、この本を読んだ記憶もあやふやになったときに、「そういえば○○って妖怪って、実は××らしいよ。たしか、なんかの本に書いてあった」と、やっちまうことが。
覚えているうちはまだいいのですが、印象に残ったところ以外が抜け落ちてからはわからない。せめてどの部分を変更したのかまで書いてくれればよかったんですが、いちいちそこまで書く義理も作者にはないでしょうし。
ていうか、妖怪の深い話を日常的にする機会なんて、ないといえばないんですが……。
ただ、以前俺も小説の中で架空の精神病をそれっぽく書いたときがあって。それを当時交流のあったプロ作家の人に「これって本当にある病気なの? あ、ないの? だったらやめたほうがいい」とか言われた記憶があるので。あれは多分、読者にこの病気が本当にあると勘違いさせてはいけないという意味だったと思うのですが(なぜやめたほうがいいか尋ねる前に別の話になってしまい聞きそびれた)。
まあ、難しいところか。


そして何より、テンポのよい文体ってのがポイント高いかもしれません。スルスル入ってくる。読みやすい。簡単そうにみえて、実はこういう文章を書くのがいちばん難しいのかもしれません。
にゃー。


さて、今年の大賞はどうなってるのだか。