さよならピアノソナタ3,4

さよならピアノソナタ〈3〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈3〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)

さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)


完結。
杉井さんの商業作品で、とりあえずちゃんと完結した最初のシリーズですね。
いろいろと思うところが出てきたので、書きます。
あと、そりゃもうものすごい勢いでネタバレしますが、あしからず。




我々、アマチュア時代の杉井さんを知る者たちの間で語られる言葉、「杉井エンド」。
杉井さんの書く話はどんな話でもカタストロフ的終焉を迎えることを表した言葉だったのですが。
商業ベースで書くようになってからは、ほのかな絶望感は漂うものの、一応はハッピーエンドと呼べるくらいには明るさを残した作品を書くようになってきてました。
個人的には、かつての杉井さんの作品にあった底知れない絶望感を好いていた人間なので、どうも物足りなさを感じていたのですが……
この『さよならピアノソナタ』の四巻で、その杉井エンドの再臨を見た!
気がした!


まあ、高校生たちのロックバンドの話です。
ヒロインである天才ピアニストが、天才ギタリストとして主人公らのバンド(主人公以外みんな女の子)に加わり、恋や音楽やらをやったりするわけです。このヒロインがなぜギターを始めたかというと、それは批評家たちのバッシングを受けて精神的にダメージを受け、右手に力が入らなくなってしまったからという理由(たしか)。
三巻で、その手が動くようになった、という展開になります。もちろんそれは主人公との関わりが理由で、また主人公のほうもヒロインへの恋心を明確にします。そして、音楽を通して二人の気持ちは結びつくのです。
まごうことなきハッピーエンド!
に、見える。
実際、杉井さんのブログには「これでもう完結ですか?」というコメントがいくつか見られました。俺が読んだのは四巻が出てからなのでわかりませんでしたが、たしかに、これだけ見ればハッピーエンドです。シンデレラがガラスの靴を履いた瞬間のようなものだから。
そして、四巻。
ハッピーエンドの向こう側。
ガラスの靴は粉々に砕け散ります。


考えてみれば、バンドメンバーの男女比1:3で、全員が主人公にラブって状態、続くはずもなく。いわば爆薬を詰め込んだようなもので。その上主人公がヘタレとくれば、爆発は時間の問題ってやつだったのですが、それがヒロインとのフラグ確定したことをきっかけに爆発。
その上、ヒロインは無茶なギターの弾き方を続けたせいで再起不能の危機に。
主人公は伝えるべきことを伝えられず、空回り、事態は坂道を転がるように、カタストロフへと向かっていく――かと思ったのですが。
なんか、まあ、うまい具合に収まってました。


しかしわたしゃそれが気に食わないのです。
絶望に向かって転がりかけたところはよかったんですけどね。じりじりと、幸福のいただきに兆しが見え、翳りはじめ、そして一気に落ちていく感じ。主人公がヒロインのピアノの録音テープに違和感を覚えるところなんて、背筋ぞくぞくしちゃった。杉井エンドの再来か!? と。
しかし、それも結局は中途半端に終わった印象。
まあ、わかりますよ。エンタメ的には、ズタボロになった状態でエンドなんて、ちょっとありえない。けど、「ヒロインの手は再起不能になりそうだったけど、ギリギリ間に合った」とか、ちょっとぬるいとか感じちゃうわけですよ。かつての杉井さんとか見てると。
主人公をとりまく四角関係も、もっと破滅的に修羅場っちゃえとか思うんですが。どうにも。結局みんないいやつらだから、どこか引き際をわきまえている感じがする。
主人公のヘタレ具合はいい感じでしたが。もうこっちはヤキモキしまくり。まあ、最後の最後で言うべき言葉を言う、というところにつなげる演出でもあるんでしょうけど。


そんなこんなで、個人的に不満が残るところ。いや、普通に見ればおもしろいんですけどね。一時期は、「杉井さんの話は、完成度は高いけど、小さくまとまってる感がある」とか思っていたわけですけど、完成度の高さを究めていってる感じがします。このまま行けば、完成度の高さだけでうならせられる作品が生まれるやも(何様だ俺)。
個人的には、そこにさらに「杉井エンド」的エッセンスをくわえ、エンターテイメントに昇華してほしいですね。




それにしても他に最近のラノベで食指が伸びそうな話がないんですが、どうしましょう。本屋でラインナップを見る感じ、どれもこれも「ちょっとえっちなラブコメ」みたいな話ばかりに見える……こういうのがはやってるのかなぁ。ラノベの王道はこういうところなのか。
そうでないのは、シリーズものになっちゃうし。
何か、一冊で終わる骨太な話はないかな、と思うと、ラノベ以外の一般小説になっちゃうんだよねぇ……。
はてさて、どうしたもんか。