満員電車

というわけで、新しいところで働き始めましたよ。
東京の浜松町。都心です。東京タワーが見えます。でも意外と小さい……数十年間前ならいざ知らず、今はビルが立ち並んでいるからかなぁ。
まあ、仕事自体は難なくいけそうなんですけど……


朝のラッシュがひどい。
九時出勤なので、もしかしたらピークの時間なのかもしれないですが。
秋葉原東北線に乗り換え浜松町に向かったのですが……すでにいっぱいいっぱいの状態の電車に飛び込む恐怖というのを初めて感じましたよ。僕が知っているプロ作家の人に「満員電車に乗りたくないから作家になった」というようなことを言ってた人がいますが、なるほどこれは十分理由になる。
なんですかね。
体はおろか、首も動かせない。体が固定されると案外頭の動く範囲って少なくなるみたいです。完璧に固められてますし。圧迫されて息苦しいし熱気がムンムンだしおっさん臭いし。
死ねるんじゃない?
あとで調べてみたら、朝の上野からの上り電車は屈指の混雑率だそうで……
東京のサラリーマンはこんなのを毎日潜り抜けているのかマジすげえ、とか思っていたところ、駅に到着するために減速。
崩れる人ごみ。
みんな慣性のまま倒れていきました。死ぬかと思いました。津波に呑まれたときってあんな感じかもしれない。押し寄せる波の中では人間はただもみくちゃになることしかできない。
ギリギリ、つり革の下がっている棒をつかんで倒れるのは免れましたが。俺より後ろのほうは見えませんでしたが、「んだコラッ」という呻きと無数の舌打ちが聞こえてきました。
ああ、ストレス社会日本……。
というか毎日通勤しているくせにみんなで崩れてしまうのか? 大丈夫か? それともこれが普通なのか? 毎日慣性にあおられて体勢を崩し舌打ちとかやってるのか? それはそれですごい……そりゃうつ病患者とか増えるわけだよ。


そんなこんなでようやく目的地についたわけですが、ちょっと中のほうに押しやられてしまったので、「すいません」とか言いながら人を掻き分けていったのですが。
かきわけた俺の手を、おっさんが払いのけてきました。恐らく俺が押してきたと思ったのでしょうか。すれ違いざまに背中を小突かれましたよ。
ひどいなぁ。
いや、もしかしたら俺のやり方も無作法だったのかもしれないけど。
人ごみの中で縮こまりながらすばやく手を出してくる姿に、なんかみんなギリギリなのかなぁ、とか思いました。
おおっぴらにケンカを売ってくるでもなく。
黙って耐え忍ぶでもなく。
すれ違いざまに小突いて人ごみにまぎれることで、溜飲を下げて自分をストレスから守っている。
きっとあのおっさんも、最初からそんな鬱屈した人間ではなかったんだろうと思います。いや、鬱屈してるとか勝手に言ってますけど。
昔は花を愛し、風の香りで季節の移ろいを感じ、そしてほのかな恋心を胸に抱いて便箋に想いをしたためたりしてた時期もあったのかもしれないです。妄想ですが。
しかし過密な満員電車に毎日乗ることで、次第に心が削れ、すさみ、荒れ果て、すれ違いざまに他人を小突くことを唯一の楽しみにしてしまうほどゆがんでいってしまったんだろうな、と思います。いや、ゆがんでるとか勝手に言ってますけど。


戦争は人を変える、とはよく聞きますが。
日常的な満員電車だって人を変えてしまうのでしょうね。くわばらくわばら。