一期一会

バイトながらまがりなりにもサービス業として、三年もやっていたら、クレームのひとつくらいされることがあります。
「こんな店に二度とくるか!」級のも、恥ずかしながら体験したことがあるのですが、思うのが、それってけっこう怖いことだよな、ということ。
クレームといっても、本当に店に不手際があったものから、客の言いがかりと変わらないものまで、いろいろあると思いますが。少なくとも、そのお客さんはもうその店にこないわけです。
のみならず、「あそこの店はこんなに悪い」ということを知人に言いふらすのかもしれません。
人間関係なら破綻しても、誠意をもって誤ったりすれば、あるいは許してもらえる可能性もなくはないです。が、店と客という関係だと、いったんお客がこなくなったら、それまで。さすがに店側が、客のほうに尋ねていって謝罪を繰り返す、なんてことはできません。そもそもその客の名前も知らないまま終わるケースが多いだろうし。
つまり、「もう二度とくるか」とはき捨てて去ったお客さんにとって、その店は永遠に最悪の店のままなのです。
これって、怖くないですか?
別に嫌がらせをされるとかそういうことでなくても、意識的にその人の選択肢の中から排除されるって。しばらくしたらその人は怒っていることを忘れるだろうけど、ふとしたきっかけでその店のことを思い出したら、怒りや不快感がよみがえるのだろうから。


一期一会。
その人とはもう一生会うことがないかもしれないから、大切に思いやりましょうとか、そういう意味だったと思います。
その昔、この言葉の意味をはじめて知った小学生当時の俺は「一生会うことないならどんなひどいことしてもカンケーなくね?」とか考えた門ですが、とんでもない。悪い印象のまま別れることの恐ろしさってのをまるっきりわかっていませんでした。
たしかに、その人が悪評とかを広めない限り、もう二度と会わないんだから実害はないんですが。
世界のどこかに、悪く思っている人がいるって、気分が悪くないですか。


ぶっちゃけ最近はサービスもちょっとなーなーになってきた感じもあるんですが。
このことに改めて気づいて、ちょっと緊張感がよみがえりましたよ。


これは小説やネットの文章にもいえるよな、と思いかけたんですが――でも、万人におもねる文章を書くってのも、なんか違うよなぁ。
一対一であるサービスと、一対多のメディアとはまた違ってくるのかしら。たしかに、客が大勢のときは一人ひとりへのサービスは薄くなってしまうけれど。んー。難しい。