冬の巨人

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

冬の巨人 (徳間デュアル文庫)

こないだふと、「人の作品のおもしろさも伝えられずに、手前の話のおもしろさを伝えられるか」と思いました。なるほど。ずっと前に誰かに言われたことのような気もするけれど、ここは自分で発見したつもりにしておこう。
というわけで、これからはおもしろそうに思えるよう紹介していこうと思います。


さて。そこでこの冬の巨人
古橋さんの新作というだけである種の人々にはそれのみで価値となるわけですが……。
派手なアクションもなく、かわいい女の子も控えめ(いないことはないけどおっさんのほうが数も出番も多い)。
また売れなそうな渋い話だ……。
千年もの冬が続く世界で、巨人の背中にとりついた街に住む少年の話ですな。
その世界観は、さすが。最大の魅力ですね。
「巨人の背中に建てられた街」です。
街の人々は日数を巨人の歩数で数え、また右足か左足かで坂道の上下が入れ替わる!
うーん、これが世界観、というやつですね。アイディアだけなら誰でも思いつける。そこを掘り下げて、そこに住む人々を通して丁寧に描く。
その巨人の町にも貧富の差があり、宗教があり、政治があり、社会問題がある。
すべて、巨人の背中という場所で起こる出来事。
その突拍子もない世界を、そこに住まう人々から見せられることで、我々はあたかもそこを歩いているかのような感覚を味わうのですな。うーん。すごい。
さらに言えばその世界を描く文章力もすごいはずなんですが、そっちは語るほどの観察眼がないので割愛。ブラックロッドシリーズのときは「よくわからんけどすげえ」だったけど、いまや「よくわかる上にすげえ」になったな。
雪原の中を歩く巨人の雄大さ。
永遠の冬の中に守られた花畑の彩り豊かさ。
分厚い雲の上の空の青さ。
するりと頭に入ってくるけど、よくよく考えたら、それってすごいことだよね。


うーむ。
すごいことはすごいけど、こういう静かな話は感想を書くのが苦手だ……。
ところで裏表紙の帯に『サムライレンズマン』の広告ありますが、なんかうちの本屋のデータベース参照した限りでは、絶版されてるような……?