募金

店のレジの片隅に、募金箱があります。
隅っこなので目立たないせいか、それとも世の人々に余裕がないのか、一円玉がちょろちょろ入っているくらいで寂しいものです。
募金といえば思い出すのは小学生のとき。
なんか正義感に燃えて、街の募金を集めている人に、千円近くどーんと出した覚えがあります。小銭でしたが。でも、小学生の千円です。今の金銭感覚で考えると――やっぱり千円か。なんだろ、金銭感覚が小学生のときと変わらないって……。
あれからすっかりやさぐれてしまい、募金箱なんて見て見ぬふりだったのですが――どうやら世の中の人も同じようで、入れてるところを見たことがない。
かつて喜んで募金してた少年時代を思い返しつつ、ないがしろにされる募金箱が、なんか不憫に感じるようになりました。
毎回、レジ閉め終わってその募金箱を事務所まで持っていくのですが、カラカラと一円玉が転がる音を聞くと、なんとなく悲しい気持ちになったりします。
ところが。
こないだ、初めてあれにお金をいれてくれる人がいたのですよ!
しかも四円も!
連続で、「ちゃり、ちゃり」と聞こえる音の、なんと嬉しいことか。
音が心にまで響きます。
ああ。
よかったな、募金箱。


と。
閉店後。
レジ締め担当の社員の人が、一言。
「あ。足りんわ」
どうやらレジのお金のデータと、実際の量に差が出た様子。
社員の人は、定規を募金箱の投入口に突っ込みました。
……え?
え、えぇっ!?
募金箱の中身、レジの帳尻合わせに使うんすか!?
ちょ……それは……えぇぇぇ?
いや。なんつーか、そのお金を入れた人は、帳尻合わせのためにお金を出したのではなくて、この星が少しでもよくなるために募金してくれてるもので――。


あぁ。
まあ、そういうことと思うと同時に「でもたかだか数円っちゃそうだけどなぁ」「ここでペーペーの新人が社員をたしなめてもなんか不毛だしなぁ」「世の中、もっと理不尽なことが横行してるし、こりゃマシなほうだよなぁ」とも思っているので、結局なんもしないわけですが。
はぁ。疲れました。