『扉の外』

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おおおおおおおもしれえ!
いや、びっくりしました。『世界平和は一家団欒のあとに』を読んで「電撃新人賞関連の記事は、あとでまとめて感想を掲載ってことでいいかにゃー」とか思っていた方針をぶっとばすには十分の出来。個人的には大賞でもおかしくないだろと思うくらいの興奮しました。
閉鎖空間の中で起こる葛藤。集団と個。力と不信。管理と依存。隔絶と確立。
『扉の外』というけれど、これは扉の中の話なんかじゃない。まぎれもない、我々の世界の縮図だ。ちょっと囚人のジレンマ実験を思い出しましたね。
まあ、どんな話か。
ああ。ちなみにこっから先はネタバレしてると思います。致命的なものじゃないと思うけど、まあ、一応警告しておきますよ。はい。


修学旅行に向かっていたはずの主人公が目を覚ますと、クラス全員、大きな部屋の中に閉じ込められていた。やがてモニターから、説明を受ける。自分たちは最低限の命の保証はされていること。ルールを守れば、庇護は続き、さらにそれ以上の欲求も満たしてくれること。しかしそれは言い方を変えた管理だと気づき、主人公は庇護の証である腕輪を外す。やがて、状況が変わる。自分以外のサークルの存在。自分たちの庇護を守るために、戦う必要があるということを。


そんな話。
まあ、なんすかね。感情移入と問題提起さえあれば、物語は十分におもしろいってことでしょうか。
もし自分なら……ということを考えずにはいられない。クラス全員閉じ込められて、管理を受けるか、あえて破棄して自由という名の闇に身を投じるか。それまで管理されまくった家庭環境に育った主人公は反射的にその管理を放棄したのだけど。
でも、それは事態の一例にしかすぎなかった。
結局、集団に何の貢献もしない主人公は邪魔者扱いされ、その部屋の扉から外に出ることになる。
このとき、ページにして100ページちょっとですかね。もうすでにひとつの物語を読んだくらいの満足感はあったんですね。クラスの中で唯一庇護を放棄した主人公。最初はクラスメイトということでみんな優しくしてくれたけど、だんだんとそれはなくなり、最後には阻害される。唯一理解を示してくれた少女がいたけど、彼女のそれもまた実は形を変えた管理だったわけです。
主人公は追いたてられるように、重い扉を開けることになりました。
で、主人公が扉を出たシーンの次のページを見て、ぞくりとしました。
『第二章』
今まではただの第一章だったんだ!
結果から言えば、集団の扉から外に出たところで、それはさらに大きな壁の中だったわけです。ひとつの集団の例は終わり、別の集団へと視点が移る。やがて集団対集団の構図が明らかになり、そして人間というものが有する本質が表出する。
特に三章。優しさの影に隠れた、利己的な支配意識にぞくぞくしましたよ。人間どうしはともかく、集団どうしは信用することができない。だから支配する。いくら表では美辞麗句を並べたところで、不信からくる恐怖はぬぐえない。だから力を持つものは他の力を認めない。アメリカとか思い出します。


あー、おもしろかった。
と、思うけれど。
んー。
これ、結局、誰が彼らを閉じ込めたとか、その目的とかは明かされてないんですよね。主人公はその存在に対して、こう言及しています。「俺たちのこの醜い行動を見て楽しんでる奴らが必ずいる」。
ああ。僕ら読者ですね。
考えすぎかもしれないけど、うーん、そういう皮肉的なことまで考えてしまうほどおもしろい作品でした。ブラヴォー。
けど、これ以上を行くだろう『ミミズクと夜の王』って、いったいなんなんだろう……。いや、審査員の間でも満場一致で大賞に決定したようだし。たしかにあらすじだけでめちゃくちゃかっこいいし。現に本そのものの装丁も違う。
期待は膨らみます。


……その前に、『なつき☆フルスイング』を処理しておいたほうがいいかしら……。や、処理って言っちゃなんだけどさ……。