一夜漬け

明日は面接です。
試験でなにを出されるかはともかく、面接ではきっと「好きな作家・作品」とかを聞かれると思うので、自分は何が好きかを考えてみました。
幸い、これはいくらかありました。
だけど、どうも薄っぺらい……。映画はビジュアルという明確な情報があるから印象に残りやすいが、小説とは文字から喚起される自分のイメージだけが印象になるので。中には「文章そのものの美しさ」に強い印象を抱くケースもあるようですけど、残念ながら僕にはそういう感性は鈍いようなので。
そんなわけで、自分の印象を整理する意味合いも含めて、心に残っている作品をいくつか紹介。


燃えよ剣』 司馬遼太郎
いちばん好きな小説は? と聞かれて答えることにしている作品。これで土方歳三に惚れて、新選組に心奪われた。
発端は、高校時代。チャンバラアクションを書こうと思って、人に「チャンバラでアクションがすごいのあったら貸して」と頼んで、貸してもらったやつ。
チャンバラアクションがすごいのではない。すべてがすごいのだ。
とにかく土方さんがカッコよすぎる。なんつーか、もう抱かれてもいい(笑)むしろ抱いてくれ!
特に、ラスト。函館での死闘の最中、単騎、敵である官軍の中枢に入り込む。そこで敵兵に誰何されるが、名乗ったのは「新選組副長、土方歳三」と、そのときにはもう消えてしまった、かつて彼が仲間たちと作り上げた組織での名前。
うまく理解できない敵兵は「何用だ?」と問う。
土方が答える。
新選組の土方が官軍に用と言えば、決まってる」
土方さぁぁーん!
うあ、ちょっと泣けてきた……。
このあと、ようやく事態を悟った官軍に集中砲火を浴びせられて討ち死にするのだけど、生涯を通して戦いで明け暮れた男にふさわしい、壮絶な最期。


土方さんもいいけど、やっぱり沖田もいい。
新選組が結成されるより前、彼らが故郷武州にいた頃。喧嘩に出た土方さんと沖田は、待ち伏せしていた敵を何人か切り倒し、帰ろうとしていた。
泥と血でひどい状態だった土方さんは、沖田を見て驚く。泥にこそ汚れていたけど返り血はひとつも浴びてなかったからだ。「こいつ、鬼の子か」と土方さんが舌を巻くシーンは印象的です。


そして、個人的にかなり好きなのが、芹沢鴨。初期の新選組の筆頭局長(局長は当時三人いて、いちばん偉かった)。
この人が、悪いのなんのって。
大砲で脅して商家に金をせびったり。部下を鉄扇で殴り殺したり。すれ違いざまに力士を斬り殺したり。もうやりたい放題。なんのフォローもできません。
だけどどこか抜けたところがあって。
清川八郎を暗殺しようと、土方さんと二人で夜道を走っていたシーン。清川めがけて軽やかに疾走する土方さんだけど、一方、ドタバタと走る芹沢鴨*1だけどその姿があまりにも騒がしいので、相手のほうもまさか刺客だとは思わず「祭りでもやってるのか?」と話しかけてくる始末。
最高だよ芹沢さん。


そんな愉快な仲間たちとも、結局死に別れていきます。土方さんが死ぬその前夜、かつての仲間たちが幽霊になって土方さんのところに訪れるシーンは、印象的というか、衝撃的でさえあります。「幽霊になって出るような軟弱なやつは武士ではない」と、生前も愚直なまでに武士であることにこだわり、そしてこだわるあまり死んでしまった近藤さんの姿もそこにある。そのとき、土方さんがなにを思ったのか……明確には描写されてなかったと思います。
惜しむらくは、原本を貸しているので手元に参考にすべきものがないことでしょうか……。うーん、曖昧な記憶を元にした、俺の稚拙な意訳では語りたくないなぁ。やっぱり観賞用・保存用・布教用でみっつくらい用意しておくべきか。これは。


『しあわせは子猫のかたち』 乙一
たった50数ページ。にも関わらず、読者の心にあたたかい何かを残していく、そんな作品。関係ないけど、ドラえもんが未来に帰ってしまう話『さようなら、ドラえもん』もたった11ページだったらしい(タイトル絵があるから実質10ページとも聞いた)。ジャイアンにひとりでケンカに勝ち、ドラえもんに報告するのび太の姿に涙を流したのですが、そんな短かったとは驚き。
閑話休題乙一です。
短いので、さっき読んでみました。
ふむ、なるほど。
最初に読んだとき、「謎解きの部分はいらないだろ」と思ったものですが、今読んだらそんなに違和感はなかったですね。初読のときは、幽霊との生活をもっと読みたいという願望が強かったからだと思います。同じように、今回読んだときも、主人公がネガティブになる大学のシーンとかはこっちもちょっと沈みました。
だけど、これは表裏一体なんですな。
明るいところがある。けれどその裏には、暗いところもある。
世界とはそういうものだ。
それともう一個気づいたことが。
幽霊の人が、夜にラジオを聞いてるシーンがあるんですが、それって月曜の深夜らしい。ってそれ、伊集院光深夜の馬鹿力じゃないか(笑)
主人公と幽霊が二人きりになる(距離が縮まる?)穏やかで印象的なシーンだったんですが、そのBGMが伊集院光だと思うと……なんか気づいてはいけないものに気づいてしまった気分……。
まあ、あれか。表裏一体か。


『フォーチュンクエスト』 深沢美潮
中学の時分、最初に読んだライトノベル
貪るように読みましたね。覚えている限り、あんなに興奮して本を読みまくったのはあれが最初で最高。これからも、そんなことはないかも。今はシリーズが続くほどにうんざりするのだけど、あのときは「どんどん続け、天まで続け」と思いながら読んでたしなぁ(そのときの俺にグインサーガを読ましてやりたかった)。
熱心なファンだったと思います。深沢さんを追いかけて、角川スニーカーから電撃にメインの購読レーベルを移したのだし。深沢さんの録音メッセージが聞けるサービスがあったのだけど、毎週聞いてたし。ファンレターを書かなかったのが不思議なくらいだ。
ただ、最近はもう読んでない(苦笑)
スニーカーの頃に比べて話が大きくなりすぎたのか(あのへっぽこパーティが国家の陰謀に巻き込まれるなんて……)、単に俺が飽きたのか、いまいちわからないけど。
もう一回最初の頃のを読んでみようかなぁ。


そんなところですかね。
おもしろかった話とか、衝撃的な話とか、舌を巻いた話とかなら他にもいくつもあったのだけど、それを言語化してちゃんと伝えられるレベルで消化できてる作品は少ない。語るには、一読だけじゃダメですね。
さて、明日はどうなることやら……。

*1:三谷幸喜のドラマでは佐藤浩市がかっこよく演じてたけど、作中での描写はずんぐりむっくりです。