『文学少女と飢え渇く幽霊』

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)


文学少女天野遠子先輩の活躍するシリーズ第二弾。
んー。なんだろう。
キャラの軽さと事件の重さが、かみ合っていないような。前回も感じたけれど、人死にが関わってくると途端に重くなるよね。
ところで、本しか食べられない先輩が、その味を食べ物で例えられるのはおかしい(だってその食べ物の味を先輩はわからないはずだから)という意見をどこかで聞きましたが、逆に、それは壮大な伏線なのかもしれないという予感。彼女は妖怪でも何でもなく、ちょっとイタイ妄想してるだけのリアルなただの女の子で、紙とインクに含まれる少量の栄養、そしてプラシーボという名の乙女の底力で生きているのだ! とか。
まあ、ふと思っただけ。
個人的にはもうちょっと軽い事件が読みたいのですけど、ダメですか?


以下、ネタバレとはいかないまでも核心部分に言及。


というわけで今回は先輩があまり活躍せず、個人的にはあれだったわけですが。
それでも素晴らしいのはエピローグのエピソード。
すべての事件が解決し、主人公が今回の悲劇の中心となった男女を想い、物語の中で幸せな結末を描きます。先輩は「林檎をレモンと蜂蜜とワインで煮込んで、冷たく冷やした、コンポートみたい……とっても……甘くて、おいしいわ」といいながらも、その一口を最後にして、二人に捧げるためにそれを食べずにおきます。
主人公がまともな味の話を書くことはめったにないのに。そして、どんなにまずい話でも、先輩は食べ切ってしまうのに。
かわりに食べるのは、とある数字の羅列。
作品の冒頭で先輩は「数字はただの数字でしょう?」「茹でる前の乾燥したマカロニを齧っているような味しかしないわ」と言って、その味を否定します。
だからその数字を最初に見たときも、先輩は「こんないたずら!」と憤っていました。
が、この事件を通して、その数字はもはやただの数字ではなくなりました。
それはたしかにひとつのメッセージ、物語になっているのです。
それを少しずつ食べながら、先輩は目を潤ませます。


不覚にも、ちょっとジーンときた。
ちくしょう、こんな演出、ずるいや!


で。自分でその技を盗もうとすると、大失敗する罠。
んー。盗むときこそ、慎重にやらねばならぬか。


追伸。
はてなで感想をみてまわっていて、発見。
真髄は、その前のページにあったようだ。
たしかに、この一字は……。