天使のレシピ2

天使のレシピ〈2〉 (電撃文庫)

天使のレシピ〈2〉 (電撃文庫)


恋愛とはもっとも普遍的な闘争である、とは酔うたびに叫ぶ俺の言葉ですが。
これはもちろん拳で語る殴り合いのことではないです(そう言うのもありますが)。
片想いの相手に振り向いてもらうためのアピールだったり、告白するかどうかを迷う自分の中の葛藤だったり、第三者の出現による嫉妬や焦燥だったり――そういう本気の感情のせめぎあいを、闘争と僕は呼びます。葛藤。ドラマ。恋愛とは誰もが主役になれる物語なのです。
と、俺の恋愛観(あるいは物語観)はおいといて。


これはそんな誰もが体験する恋愛の葛藤を抜き出し、ライトノベル風の「ちょっと不思議観」で彩り、しっとりとまとめた短編連作。
例えば、「彼氏が女友達とベタベタする。彼には何の気もなく、自分のことを好きなのはわかっているけど――嫉妬が止められないよ!」という話とか。自分だけを見てほしい、けどそんなことを言っても困らせるだけ、自分が我慢すればいいだけだけど……でも目の前で他の女に抱きつかれてヘラヘラしてるのを見たらむきー、という葛藤ですな。
そこでは誰も死なないし、どんな世界も滅びない。想定できる最悪の事態は、せいぜい恋人とゴタゴタして別れるという程度。
しかしこんなに感情移入して読めた話は久しぶりかも。いやぁ、おもしろかった。
恋人とのイチャイチャする幸福感はもちろん、しかしその恋人に絡んでくる女へのムカツキ感まで、主人公と一体となって楽しめました。


この物語の恋愛のゴタゴタの裏には、天使が絡んでいます。彼らは人間の恋愛に関する『心の欠落』を埋めるのが役目で、それがすなわちこの物語の不思議要素なのですが。
心の欠落とは例えば、『恋人がいるのに他の異性といちゃつくことに、何の問題も感じないこと』とか。
ただ、ほとんどは人間たちが自分たちで解決するんですけどね。恋人たちに対する「ありえない問題――しかしちょっとだけありえる問題」に、当事者である彼らだからこそできる努力で解決を目指す――すなわち闘争がそこにあります。
天使のやるのは最後のひと押しだけ。ちょうどブギーポップみたいなものでしょうか(って、それは違うか)。


まあ、おもしろかった。前作の「恋人がいるのに、他の男にキスしたくなる話」の葛藤や、「実験と称して手探りの恋愛をする不器用なカップル」の初々しさもよかったですが、今回のもいい。
前述した「恋人に絡んでくる女」がいるわけですが、この娘が素晴らしい。
この話、表と裏の構造になっていて。表が、「彼氏にやけに親しげに恋愛相談を持ちかけてくる女に嫉妬する少女」の話。そして裏が、その「恋愛相談を持ちかけてくる女」の彼氏を主人公にした話になるわけですが。
表でとにかくイヤなやつとして描かれた女が、裏ではとにかくかわいそうな女の子として描かれている。


第一印象が悪ければ悪いほど、あとでそのイメージが好転したときの反動がデカイ、とは僕が心理学を学んでいたときの、現在覚えている数少ない知識ですが。まさにそれかと。
彼女は、些細なことで主人公と付き合うことになるわけですが。彼女の元彼はどうやら最低野郎だったらしく、彼女は恋愛というモノに根本的なズレがある(恋人とは、自分が嫌なことでも相手の願望を満たしてやるものだ、と思いこんでいたりとか)。
しかし主人公が、がんじがらめにされた鎖を解くように、ひとつひとつ正しい恋愛の形を教えていくわけです。自分も正しい恋愛の形なんてよく知らないわけだけど、そこはまあ手探りで。
で、それに対して彼女がふいに尋ねるわけです。以下、そのやりとり。


「どうしてそんなにいっしょうけんめいなんですか? わたしなんかどうでもいいじゃないですか」
「弥生ちゃんが好きだから……?」
「……近寄らないでください」
「へ?」
「ドキドキするから近寄らないでくださいっ!」


その発言にこっちがドキドキさせられます。
ふぅ、おなかいっぱい。次も出たら買お。